ユリノキ(モクレン科)

北アメリカ東部原産で日本には明治初年に渡来したといわれ、街路樹や公園樹に多い。成長の速い落葉樹で高さ60m幹の直径3mにもなり、材は合板、建築、家具などのほか、アメリカ先住民の丸木舟に用いられたという。

小石川植物園には、日本で最も古い株の一つと思われる幹回り5mほどの巨樹があり、そこに立っている説明板によれば、和名ユリノキの命名は皇太子時代の大正天皇によるという。それよりも100年以上前にリンネによって名付けられた属の学名Liriodendronの前半はユリ、後半は樹木を意味する。

花は上向きに咲くので正面から見る機会は少ないが、その形(図1)から英語ではtulip treeとよばれる。花には萼片3枚と花弁6枚があり、花弁はチューリップなど多くのユリ科植物の6枚の花被片(萼片と花弁)と同じ配列に並ぶ。

ユリノキによく似て花がやや小さく葉がやや大きいシナユリノキが中国の南部からベトナム北部にかけて自生し、ユリノキ属はこの2種だけからなる。近縁の植物が北アメリカ東部と東アジアに飛び離れて分布する例は、このほかにナツツバキ属、フジ属、ミズバショウ属などが知られている。

ユリノキは風変わりな葉の形から半纏を連想されハンテンボクという別名もある。葉には長い葉柄があり、その付根の左右に1対の付属物がある(図2)。これは托葉とよばれ、葉身(平たい部分)および葉柄(茎と葉身をつなぐ部分)とともに葉を構成する要素である。植物の種類によって葉柄や托葉を欠くものもあるが、ユリノキは托葉を観察するには好例といえる。ただしユリノキの場合、托葉は若葉の成長とともに脱落するので、早落性托葉の好例である。開く前の若葉は一つ前の葉の托葉に守られており、開葉の際の若葉の姿勢の変化を観察するのもおもしろい(図3)。秋には黄褐色に色づき(図4)、やがて大量の落ち葉が舞い散る。

ユリノキ 花
図1 花。1988/05/16、千葉市稲毛区

ユリノキ 葉身・葉柄・托葉
図2 葉身・葉柄・托葉。1985/09/10、千葉市稲毛区

ユリノキ 若葉の展開
図3 若葉の展開。1975/07/26、長野県戸隠高原

ユリノキ 黄葉
図4 黄葉。1987/11/01、茨城県七会村
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