クヌギ (ブナ科)

東アジアに広く分布し、高さ15m径60cmにもなるが、武蔵野の雑木林では若木のうちに幹を伐って数本の枝を伸ばすように育て、ほどよい太さの薪炭材やシイタケ栽培のほだ木を得る。材は火持ちがよく火力も強いので薪炭材として優れている。
葉はクリによく似ているが、光に透かすとクリでは鋸歯の先まで緑色であるのに対してクヌギでは鋸歯の先の方は葉緑素(クロロフィル)を欠き淡色なので区別できる。
雌雄同株で花期は春(図1,2)。果実は殻斗とよばれる器官の中で育って翌年の秋に熟し径2cmほどの球形となり(図3,4)、ドングリとよばれる。ドングリは広義にはコナラ属の各種の果実、さらに広義にはシイやマテバシイの果実をも指すことがあるが、狭義のドングリはクヌギの果実である。
武蔵は旧制高校としては寮歌は多くないが、7期(1935年卒業)の竹内正・清水榮・田中大平の3先輩が卒業で別れて行く日が近いことを惜しんで作詞作曲した『惜別之譜』は新制になってからもしばらく歌い継がれ、1960年ごろの寮歌祭でも何回か歌われた。その六番の歌詞に「忘るる勿れ櫟林の美はしかりし起き伏しを」とある。櫟はクヌギに対する中国名の一つで、往時は構内に多く生えていたと想像されるが、近年は大木が2本あるだけとなっている。寮歌祭への参加を前にして『惜別之譜』の「櫟林」を何と読むかが同窓生の間で論議されたこともあったが、結局ラクリンと歌うのが普通となった。
俳人としても知られる有馬朗人学園長が武蔵高校の高等科を受験した1947年春の作に
   櫟なほ芽吹かざれども雲は春
がある(高浜虚子選)。この時に見上げた木は、学園に現存する2本の大木のうちの1本で玉ノ橋の近くにあるものと思われる(学園長談)。

図1 クヌギ
図1 雄花序。1990/04/14、千葉市稲毛区

図2 クヌギ
図2 雌花序。1990/04/14、千葉市稲毛区

図3 クヌギ
図3 殻斗と果実。1989/11/20、石神井公園

図4 クヌギ
図4 果実。1989/11/20、石神井公園
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